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長崎地方裁判所 昭和56年(ワ)150号 判決

原告

柴田薫

被告

福岡都市配送有限会社

主文

一  被告は、原告に対し、金三五四万五八〇八円及び内金三二四万五八〇八円に対する昭和五四年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が金一〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金七八七万六三六九円及び内金七〇七万六三六九円に対する昭和五四年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1(事故の発生)

(一)  発生日時 昭和五四年九月二日午前五時一〇分ころ

(二)  発生場所 鹿児島県阿久根市西目町二四九番地先路上

(三)  加害車 普通貨物自動車(福岡一一あ八一二五)

運転者 訴外大道克己(当時被告会社の従業員)

(四)  被害者 原告(右加害車に同乗中)

(五)  態様 右大道が、加害自動車を運転中、居眠り運転し、駐車中の訴外半田昭運転の大型貨物自動車に追突し、その衝撃により大道の運転する自動車に同乗していた原告を負傷させた。

2(責任原因)

被告は、加害車を保有し、自己のため運行の用に供していたものである。

3(受傷程度及び後遺症)

原告は、本件事故により、骨盤骨折(右側恥骨々折)、両側下腿裂創、両下腿骨折、全身打撲(散在性擦過創含)、顔面打撲による上口唇(口腔内)裂傷、歯牙破損(三本)の傷害を受け、内山病院にて、昭和五四年九月二日から同月一六日まで入院、三菱病院にて同年九月一六日から同五六年一月二三日まで入、通院して治療をうけた。

後遺症として、歩行困難、正位困難、左片足立ち困難、正座不能、左下腿知覚鈍麻、両足関節運動制限、左足内反変形等の後遺症を有する。

4(損害)

(一)  治療費 金三万五六五〇円

内山病院における治療費

(二)  入院雑費 金二〇万六五〇〇円

三菱病院における昭和五四年九月一六日から同五五年六月一四日までの二七二日間と同年一〇月二八日から同年一一月一九日までの二三日間の入院雑費(一日金七〇〇円×二九五日)。

(三)  入院室費 金二万四五六〇円

重傷のため個室に収容され、その個室料。

(四)  付添費 金六〇万九〇〇〇円

重傷のため、昭和五四年九月一七日から同年一二月二五日までの家政婦による看護料。

(五)  診断書料 金一万三六〇〇円

(六)  逸失利益 金五九七万七〇五九円

(1) 休業損害 金一八六万六〇三九円

原告は、福田眼科医院に看護婦として勤務し、給与として、月額一〇万九七六七円の収入を得ていたところ、本件事故により、昭和五四年九月二日から同五六年一月末日までの一年五か月間勤務できなかつたので、その間一八六万六〇三九円の収入を失つた。

(2) 将来の逸失利益 金四一一万一〇二〇円

原告は昭和三〇年五月三〇日生れの健康な女性で、右のとおり看護婦として稼働していたものであるところ、前記後遺症により、労働能力の一四パーセントを失い、これによる逸失利益は金四一一万一〇二〇円となる。

(109,767×12×14/100×22.293)

(右計算基準)

月収 金一〇万九七六七円

労働能力喪失率 一四パーセント

就労可能年数 四二年

ホフマン係数 二二・二九三

(七)  慰藉料 金三五〇万円

入通院慰藉料(入院約一〇か月、通院約七か月)二〇〇万円、後遺症慰藉料(等級第一二級)一五〇万円の合計額。

(八)  損害の填補 金三二九万円

原告は自賠責保険から、傷害填補一二〇万円、後遺症填補二〇九万円の支払を受けた。

(九)  弁護士費用 金八〇万円

原告は、被告が右損害賠償の要求に応じないため、原告訴訟代理人に本件を委任し、着手金一〇万円を支払い、謝金として認容額の約一割に当る金七〇万円の支払を約した。

よつて、原告は、被告に対し、金七八七万六三六九円及び内金七〇七万六三六九円に対する不法行為の時の昭和五四年九月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち(五)を否認し、その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3、4の事実は争う。

三  抗弁

1(好意同乗による過失相殺)

(一)  訴外大道は、本件事故当時、被告会社の業務に従事し、昭和五四年九月一日、福岡市在の被告会社の車庫を深夜出発し、鹿児島市に向けて商品を運搬中であつた。

(二)  右大道は、従来から恋愛関係にあつた原告をその途中で同乗させて運転中、本件事故を発生せしめたものである。

(三)  原告は、同人が同乗すれば、大道の注意能力が散漫となり、事故発生の危険が増加することを予想できたのに同乗したものであり、原告の同乗は、被告会社の運行規約に違反するものである。

2(損害賠償請求権による相殺)

(一)  本件事故は、訴外大道と原告とが、被告会社による職務中の同乗禁止を知りつつ乗車し、さらに同乗中右両名が話しに夢中になつたか、又は、ふざけあつたため右大道が前方不注視となり、発生したものである。

(二)  被告会社は、右両名の共同不法行為により、次の損害を被つた。

(1) 被告会社所有の車両修理代 一七七万一五七〇円

(2) 訴外日本運輸機工所有の車両修理代 一八万五〇〇〇円

(3) クレーンによる被告会社の右車両引上げ代 二万九七〇〇円

(4) 修理期間中の休車保障 一〇万円

(5) 現場から鹿児島までの代車代 一万八〇〇〇円

(6) 積載貨物の損失代 一八万七九三二円

以上合計 二二九万二二〇二円

(三)  被告会社は、原告に対し、昭和五七年三月二三日の本件口頭弁論期日において、右金額の損害賠償債権をもつて原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1・2の事実は全部否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の(一)ないし(四)の各事実は、当事者間に争いがない。そこで、同(五)の事実、すなわち、本件事故の態様につき、判断するに、成立に争いない乙第一号証、証人大道克己の証言及び原被告本人の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができ、右認定に反する被告会社代表者の供述は、採用しない。

1  訴外大道は、昭和五四年六月ごろ、被告会社に自動車運転手として入社し、その業務に従事していたものであるが、本件事故の前々日に当る昭和五四年八月三一日、福岡と佐伯間を往復運転した後、さらに、その翌日の九月一日、福岡と長崎間の往復運転をし、その間、荷物の積み替えの仕事をしたこともあつて、まとまつた休息時間をとつていなかつた。

2  大道は、昭和五四年九月一日午後一〇時ごろ、被告会社を出発し、翌日午前八時ごろ目的地の鹿児島市に着き、同市で荷物を降ろした後、同日の昼ごろ同市を出発し、その日の夜八時ごろ、被告会社へ帰える予定であつたが、かねてから恋愛関係にある原告に対し、眠気覚しに同乗してくれるよう依頼したところ、原告もこれを承諾し、大道が被告会社を出発した後、福岡市西区藤崎で大道運転の自動車に同乗した。

3  大道は原告と共に、鹿児島市に行く途中、午後一二時ころから三時間ぐらい休けいした後、運転を開始したが、原告は走行中の自動車の同乗席に眠り、大道はいねむり運転をした結果、本件事故を発生させた。なお、原告が同乗したことによつて、大道の予定した運行経路が大幅に変更され、事故発生時までに被告会社の運送業務が影響を受けた事実はなかつた。

4  被告会社には、職務中に他人を同乗させることを禁止する旨の就業規則はなく、このことを従業員に注意することも考慮していなかつた。

二  請求原因2の事実は当事者間に争いがないし、この事実と前記認定した本件事故の態様によれば、被告は、大道運転の自動車を運行の用に供する者として、その運行によつて身体を害された原告に対し、損害を賠償する責任がある。

三  請求原因3の事実、すなわち、原告の受傷内容及び後遺症について判断するに、成立に争いない甲第六ないし第一四号証、第一七号証及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、本件事故により、骨盤骨折(右側恥骨々折)、両下腿骨折等請求原因3記載の傷害を受け、本件事故の日である昭和五四年九月二日から同月一六日まで事故現場近くの内山病院に一五日間入院した後、同一六日に長崎市の三菱病院へ転院して、昭和五六年一月二三日に症状固定の診断を受けるまでの間、入院日数二九五日、通院実日数七日にわたり、本件事故による原告主張の傷害の治療を受けた。

2  原告は、本件事故の受傷により、請求原因3記載の自覚症状及び他覚症状を内容とする後遺障害を有し、左下腿には植皮術による傷痕を有している。

四  請求原因4の事実、損害について

1  原告が本件事故による傷害の治療のために、昭和五四年九月二日から同五六年一月二三日まで入通院したことは前記認定のとおりで、成立に争いのない甲第七、第八号証、第一〇号証、第一二号証、第一四号証によれば、治療費の一部負担金や診断書料等を原告が、内山病院に対して金三万五六五〇円、三菱病院に対して金一万三六〇〇円支払つたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

2  付添費・入院室料

原告が、三菱病院に合計二九五日にわたり入院した事実は前記認定のとおりであるが、成立に争いない甲第六号証、第九号証、第一八号証の一ないし四、第二〇号証の一、二、第二一号証の一ないし四及び原告本人尋問の結果によれば、三菱病院医師の、「ベツド上安静を要するため、付添看護を要する」という認定のもとに、昭和五四年九月一七日から同年一二月二五日まで共和看護婦家政婦紹介所の看護婦の付添を受け、付添費として、原告が右紹介所へ合計金六〇万九〇〇〇円を支払つたことが認められ、また、成立に争いない甲第一六号証の二、四によれば、原告が三菱病院に対して入院室費として少なくとも金二万四五六〇円以上支払つたことが認められ、右各認定を左右する証拠はない。

3  入院雑費

原告は、前記認定どおり、三菱病院に合計二九五日間入院したのであるから、その間の入院雑費としては、一日金六〇〇円の合計金一七万七〇〇〇円が相当額であると認める。

4  逸失利益

(一)  成立に争いない甲第一九号証の一ないし三及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五一年四月から准看護婦として、その後、看護学校を卒業した同五四年四月以降は、正看護婦として、引き続き福田眼科医院に勤務しており、本件事故に遭つた当時、一か月当たり金一〇万九七六七円の収入を得ていたこと、本件事故による受傷で昭和五四年九月二日から同五六年一月末までの間、全く稼働することができず、その間合計金一八六万六〇三九円相当の休業損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  成立に争いない甲第一七号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告には、本件事故による傷害のため、前記認定の後遺障害が存在し、そのため原告は日常生活において種々の不便を強いられ、自動車損害賠償責任保険上、右後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級該当の認定を受けていることがそれぞれ認められ、以上の事実を総合勘案するならば、原告は稼働可能となつた昭和五六年二月一日以降、六七歳に達するまでの四二年間、その労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そして、原告の本件事故時の収入が、一か月金一〇万九七六七円であることは前示認定のとおりであるし、ホフマン式計算法により、右四二年間の逸失利益の現価を求めると、その金額が金四一一万一〇二〇円となることは計算上明らかである。

5  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位・程度、入通院期間、後遺症の程度その他本件にあらわれた諸般の事情を勘案すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は金二五〇万円が相当である。

五  好意同乗の主張について

原告は、前記第一項で認定したとおりの経緯で訴外大道運転の普通貨物自動車に同乗して、本件事故に遭つたものであるから、信義則上、右同乗に至つた経緯、状況等を斟酌し、本件事故による損害の三割を減額するのが相当である。その結果、損害額の合計は金六五三万五八〇八円である。

なお、前記第一項で認定した本件事故の態様から、本件全証拠を検討しても、原告が本件事故の惹起につき大道の過失に加担した事実を認めるに足りる証拠はない。それ故、原告が被告に対する共同不法行為者であることを前提とした、被告の相殺の抗弁の主張は、その余の判断するまでもなく、理由がない。

六  損害の填補

原告が本件事故による受傷に関して、自動車損害賠償責任保険から、傷害保険金として金一二〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなくその他に、後遺障害保険金として、金二〇九万円の損害の填補を受けたことは、原告の自認するところであるから、右合計金三二九万円を前記損害額から控除すると残額は金三二四万五八〇八円となる。

七  弁護士費用

原告が、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し、相当額の報酬の支払を約していることは、弁論の全趣旨から認められるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額に鑑みると、被告に対して賠償を求め得る弁護士費用は金三〇万円が相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、金三五四万五八〇八円及び内金三二四万五八〇八円に対する本件事故の日である昭和五四年九月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言及びその免脱担保につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 砂川淳)

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